新世紀エヴァンゲリオン 第拾弐話「奇跡の価値は」 【解説】
第拾弐話「奇跡の価値は」
第10使徒サハクィエル戦。成層圏より飛来する第10使徒サハクィエルに対して3体のエヴァンゲリオンが勝算の殆ど無い作戦に挑みます。
西暦2000年(15年前)
葛城ミサトはセカンドインパクトの嵐の中、父親の手によって緊急脱出ポッドへと運ばれていました。葛城ミサトも父親も怪我を負っているようでした。
葛城ミサトの父親は葛城ミサトを脱出ポッドに入れると、その上に覆い被さるように倒れ、その直後、大きな(爆発によるものと思われる)爆風が発生し、それと共に南極には4枚の巨大な光の羽が出現していました。
次の場面では脱出ポッドは海に浮かんでいて、辺りに父親の姿は見当たりませんでした。脱出ポッド内にいた葛城ミサトは無事だったようであり、脱出ポッドが開いた後、目の前にある光景、巨大な光の柱が海面から雲の上まで達している光景を眺めていました。恐らく南極に出現した巨大な光の羽の根元の部分だと思われます。
葛城ミサトの家
場面は回想から現在へと戻り、葛城ミサトは着替えを行っていましたが、その胸の間の少し下には大きな傷がありました。第拾話「マグマダイバー」で言っていたようにセカンドインパクト時のもののようです。
葛城ミサトの部屋の机の上には葛城ミサトがいつも胸から下げている立体ギリシャ十字がありました。これまで葛城ミサトの胸に下げられている十字架は形状の描画が不安定でしたが、ここでははっきりと立体ギリシャ十字である事が分かるようになっています。
葛城ミサトの家には帰宅した碇シンジの他に鈴原トウジと相田ケンスケが雨宿りのために立ち寄っていました。
雨宿りに寄っただけの鈴原トウジと相田ケンスケに対する惣流・アスカ・ラングレーの台詞です。相田ケンスケには「自意識過剰なヤツ」と言われていました。普段の鈴原トウジと相田ケンスケを見ていると、葛城ミサトに会いに来る事はあっても、惣流・アスカ・ラングレーに会いたいがためにと言う事は考えられず、確かに意識し過ぎのようです。
葛城ミサトは一尉から三佐に昇進していたようですが、一緒に暮らしている碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレーは葛城ミサトの昇進を知らず、相田ケンスケの台詞で初めて知ったようでした。葛城ミサトも碇シンジや惣流・アスカ・ラングレーに話していなかったようです。
ネルフ本部施設 : ハーモニクステスト
夜。碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイの3人はネルフ本部施設内でハーモニクスのテストを行っていました。
テストが終わり、碇シンジはハーモニクスの値が前回よりも伸びていると赤木リツコに褒められていました。ただ、碇シンジは褒められても余り嬉しく無いようであり、惣流・アスカ・ラングレーに皮肉を言われても愛想笑いを浮かべるだけでした。
惣流・アスカ・ラングレーは自分よりも成績の低い碇シンジが褒めらている事が気に入らないようであり、更に、はっきりしない碇シンジの態度が気に障ったのか、機嫌を損ねて一人で先に帰っていました。
帰宅時 : 葛城ミサトの車内
帰宅時の車内。碇シンジは葛城ミサトに昇進を祝う言葉を掛けますが、葛城ミサトは昇進した事を嬉しいとは感じていないようでした。その気持ちは碇シンジも分かるらしく、同じように先ほど褒められた事を嬉しいとは感じていないようでした。
碇シンジはテスト後にどうして惣流・アスカ・ラングレーが機嫌を損ねたのかが分からずに、原因を気にしていました。
葛城ミサトが言うには原因は碇シンジが相手の顔色ばかりを気にしているからだそうです。
葛城ミサトの家 : 昇進の祝賀会
帰宅後、葛城ミサトの家では葛城ミサトの昇進の祝賀会が開かれました。
葛城ミサトの家には鈴原トウジ、相田ケンスケ、洞木ヒカリがやって来ていました。この昇進祝賀会は相田ケンスケが企画立案を行ったようです。洞木ヒカリは惣流・アスカ・ラングレーが誘ったらしく、2人は仲が良いようでした。惣流・アスカ・ラングレーは綾波レイも誘ったようですが、綾波レイは来なかったようです。
碇シンジは人が多く賑やかなのは苦手らしく、他の人達が騒いでいる姿を見て「なんでわざわざ、大騒ぎしなきゃならないんだろ」と呟いていました。
碇シンジは葛城ミサトにネルフに入った理由を聞いていましたが、ここでは上手くはぐらかされていました。
その後、加持リョウジと赤木リツコも葛城ミサトの祝賀会に訪れていました。
南極
碇ゲンドウと冬月コウゾウはUN艦隊と共に南極に来ていました。
現在の南極は赤い海と化し、赤い海面からは何本もの白い柱が突き出ていました。15年前のセカンドインパクトがこの状況を招いたようです。
UN空母の飛行甲板には巨大な棒状の物体が積まれていました。ここではこの積荷に就いては何も語られていませんが、これは「ロンギヌスの槍」であると思われます。
何も無い世界を「原罪の穢れなき浄化された世界だ」などと言っていますが、碇ゲンドウが本気でそう感じているのか、単なる言葉遊びで言っているのか...判断は難しいように思います。
第10使徒サハクィエル
ネルフ本部ではインド洋上空に使徒を確認します。
第10使徒サハクィエルは上空から体の一部を分離させて投下。着弾地点には大爆発によるものと思われる大きなクレーターが出来ていました。最初の投下では海上へと着弾し、第3新東京市からは大きく外れていましたが、第10使徒サハクィエルはその後も同じように投下を繰り返し、その度に着弾地点が第3新東京市へと近づいて来ているようでした。
上空から攻撃を仕掛けて来る第10使徒サハクィエルに対してN2航空爆雷による攻撃を試みたようでしたが、効果が無く、以後の第10使徒サハクィエルの消息は不明。次は第3新東京市、ネルフ本部に本体ごと(落下して)来る事が予想されていました。
ネルフでは第10使徒サハクィエルの放つ強力なジャミングの影響により南極にいる碇ゲンドウとの連絡が取れず、そのため葛城ミサトが現時点での責任者となり、今後の判断を委ねられていました。
葛城ミサトはネルフ権限における特別宣言D17を日本政府各省に通達します。これにより半径50キロ以内の全市民には直ちに避難するように命令が発令されていました。また、葛城ミサトは松代にマギのバックアップを要請。最悪の場合、第3新東京市だけで無くネルフ本部施設まで無事では済まない可能性が大いに考えられるようです。マギも全会一致で撤退を推奨していました。
葛城ミサトの台詞は普段であれば赤木リツコが口にしそうな台詞です。
赤木リツコは勝算が無い上に失うかも知れないと分かっていながらエヴァンゲリオンを3体とも投入すると言う葛城ミサトの作戦に反対のようでした。
それも葛城ミサトが私怨を晴らすために使徒と戦っていると言う事を知っているため、尚更のようです。
作戦の通知
葛城ミサトは碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイの3人に作戦を通知。作戦の内容は...落下予測地点にエヴァンゲリオンを配置し、ATフィールド最大で第10使徒サハクィエルを、直接、手で受け止める...と言うものでした。
第10使徒サハクィエルが大きくコースを外れる可能性や、落下を受け止めた際にエヴァンゲリオンが衝撃に耐えられない可能性もあり、やはり、作戦の勝算はかなり低いと言えるようでした。
奇跡は起きてこそ初めて奇跡と呼ばれるものであり、葛城ミサトはその「起これば奇跡」の奇跡を「何とかして起こして見せろ」と言っているようです。
姫は「エヴァンゲリオン」を見る前に「ふしぎの海のナディア」を見ていた事もあり、この場面ではサンソンの「奇跡ってのは、自分の力で起こすもんです」(第21回「さよなら...ノーチラス号」)と言う言葉を思い出しました。誰が起こすかは別にして、奇跡と言うのは起こり得ないような事が起こって初めて奇跡と呼ばれるようになるのだと思います。
この作戦は辞退を申し出る事が出来るようでしたが、碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイの中に辞退者は出ませんでした。
ステーキ
惣流・アスカ・ラングレーと碇シンジは笑顔で喜んでいましたが、これはステーキで自分達が喜ぶと思っている葛城ミサトに気を使っての作り笑顔だったようです。惣流・アスカ・ラングレーも碇シンジもステーキでは喜べないようです。
その惣流・アスカ・ラングレーは葛城ミサトが去ると、早速、どこでご馳走になるかを決めようと「第3東京グルメMAP」なる冊子を取り出してお店探しを始めていました。お店探しをする惣流・アスカ・ラングレーの姿は楽しそうに見えました。
碇シンジは赤木リツコに褒められた時には、自分だけの事であったためか、無理に嬉しそうに振舞う事はしませんでしたが、同じ嬉しく無い時でも相手の気持ちを考えた上での喜ぶ振りは出来るようです。
惣流・アスカ・ラングレーは綾波レイに一緒に来るように誘っていましたが、綾波レイは行かないと断っていました。お肉が嫌いとの事でした。
作戦開始前
第10使徒サハクィエルの起こす電波撹乱によって第10使徒サハクィエルの正確な位置が掴めなくなっている中、第10使徒サハクィエルを見失う直前までのデータからマギが算出した落下予想地点...それは広範囲に亘るものでした。
そこで葛城ミサトは3体のエヴァンゲリオンを第3新東京市の北、東南、西南の3箇所に離して配置する事にします。配置の根拠は葛城ミサトの「女の感」との事でした。
ケイジへと向かう途中、碇シンジが惣流・アスカ・ラングレーにエヴァンゲリオンに乗る理由を聞くと、惣流・アスカ・ラングレーは自分の才能を世の中に示すためだと答えていました。惣流・アスカ・ラングレーはエヴァンゲリオンに乗る理由がはっきりしているようです。
(物語の先を見ると、惣流・アスカ・ラングレーは心の底では母親に自分の事を見て欲しがっているようであり、その満たされない願望を別の形(惣流・アスカ・ラングレーの場合は反対の形、目を背けて蓋をする形)で補うために表面に現れているのが「他人の力に頼らない自立を望む惣流・アスカ・ラングレー」であるように見えます。それも他者に認められる事によって自分を成り立たせようとしいるだけであり、自分自身で自立しようとしている訳ではありません。他人に褒められても嬉しいとは思わない碇シンジ、他人に褒められたがっている惣流・アスカ・ラングレー...表面に現れている態度は違って見える2人ですが、自分を捨てた父親を憎む半面で父親に認められたい、必要とされたいと願っている碇シンジと、本当は母親に自分の事を見て欲しいと願っている惣流・アスカ・ラングレーは根本では似通っているところがあるように見えます。)
碇シンジは惣流・アスカ・ラングレーにエヴァンゲリオンに乗る理由を聞き返されますが、これに対し、碇シンジは「分からない」と答えていました。
作戦開始前 : 回想
作戦開始前。エヴァンゲリオン初号機、エヴァンゲリオン弐号機、エヴァンゲリオン零号機がそれぞれの配置地点に配置されていました。ここで碇シンジの回想が入ります。
回想では、葛城ミサトが前日に碇シンジに聞かれた質問、ネルフに入った理由を碇シンジに答えていました。
葛城ミサトは自分の父親の話から始めます。
葛城ミサトの話によると、葛城ミサトの父親は自分の研究、夢の中に生きる人間であり、家族の事など構いもしない人間だった言います。それは、心の弱い、家族と言う現実から逃げてばかりいる人間、子供みたいな人間として葛城ミサトの目に映ったようであり、そのような父親の事を葛城ミサトは嫌い、憎んでさえいたそうです。
しかし、その父親がセカンドインパクトの時に葛城ミサトの身代わりになって死んだ事により、葛城ミサトは父を憎んでいたのか好きだったのかが分からなくなったと言う事でした。父親を憎みながらも、どこかで求めていたのかも知れません。
使徒を倒す事、それが葛城ミサトがネルフに入った理由のようです。
家族を省みずに自分の仕事に打ち込む父親、そして、その父親を憎みながらも求めている葛城ミサトの姿に碇シンジは自分(碇ゲンドウを憎みながらも求めている自分)と重なるものを感じているようでした。
葛城ミサトの話を聞き終えた碇シンジは戦い(エヴァンゲリオンに乗る事、勝算の低い作戦に挑む事)への覚悟を決めていました。そこには逃げずに自分自身、そして碇ゲンドウと向かい合う事の覚悟も含まれているように見えました。
第10使徒サハクィエル戦
ネルフでは距離2万5000(恐らくはキロメートル)より落下する第10使徒サハクィエルを確認。作戦は第10使徒サハクィエルが距離2万を過ぎたところで開始され、作戦開始と共にエヴァンゲリオン初号機、エヴァンゲリオン弐号機、エヴァンゲリオン零号機がそれぞれの配置地点から走り出していました。
落下地点に向かう3体のエヴァンゲリオンの内、エヴァンゲリオン初号機が最初に落下地点に辿り着きます。落下地点に辿り着いたエヴァンゲリオン初号機はフィールドを全開にし、落下して来た第10使徒サハクィエルの真下に入り、これを両手で受け止めていました。
そして、エヴァンゲリオン初号機の後にエヴァンゲリオン零号機とエヴァンゲリオン弐号機が落下地点に到着。3体のエヴァンゲリオンで第10使徒サハクィエルの落下を食い止めます。その状態からエヴァンゲリオン零号機がATフィールドを抉じ開け、エヴァンゲリオン弐号機がプラグナイフを突き立て、第10使徒サハクィエルを倒していました。
第10使徒サハクィエルは最後に大爆発を起こし、落下を食い止めていた地点には大きなクレーターが出来ていました。
第10使徒サハクィエルとの戦闘後
電波システムが回復し、南極の碇ゲンドウから通信が入っていました。
碇ゲンドウに褒められた碇シンジは驚いたような顔を見せていました。恐らく、碇ゲンドウが自分を褒めた事が、一瞬、信じられなっかったのだと思います。
碇ゲンドウは碇シンジがその場にいるかどうかを聞いた時には「初号機のパイロットはいるか」と言っていたのですが、褒める時には「よくやったな、シンジ」と名前を出して褒めていました。この辺りは上司が部下にと言うのでは無く、父親が子供に言った感じを受けました。
ラーメン屋
作戦終了後、葛城ミサト、碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイの4人は屋台のラーメン屋さんへと来ていました。
葛城ミサトの給料を考慮した結果の選択のようです。綾波レイもラーメンであれば大丈夫との事でした。
屋台のラーメン屋では綾波レイは「にんにくラーメン(チャーシュー抜き)」、惣流・アスカ・ラングレーは「フカヒレチャーシュー(大盛り)」を注文していました。葛城ミサトと碇シンジの注文は不明です。
碇シンジは、赤木リツコに褒められた時には嬉とは思わなかったようですが、碇ゲンドウに褒められた事に対しては嬉しいと感じたようでした。そして、積極的に乗りたがっている訳では無いエヴァンゲリオンに自分が乗っている理由を何と無くではあっても分かる事が出来たようです。これが碇シンジが奇跡を起こして得たもののようでした。
父親が命を懸けて自分を助けた事で憎しみの裏側に父親を求める自分がいる事に初めて気が付いた葛城ミサトのように、碇シンジも自分を捨てた父親、嫌っているはずの父親に対し、今回の事でどこかに認められたいと言う気持ちがある事に初めて気が付いたようです。アンビバレンスと言う表現が適切かどうかは分かりませんが、愛情を求める一方、認められたいと願う一方で、それが得られずに(そして、切っ掛けが訪れるまでは願望が意識化されないままで)憎しみを向けていた、嫌っていた...と言えるようです。
第拾弐話「奇跡の価値は」の終わりに
褒められる相手によって嬉しいかどうかが変わると言うのは姫にも実感としてあります。自分が褒められたいと思っている人間以外に褒められても姫は嬉しいとは感じません。これは「好き」も同じです。他の子に好きだと言われても姫は困惑するだけです。ただ、姫の感覚が碇シンジと同じものかと言うと違う部分の方が多いのでは無いかと思います。部分的に同じように見えるところがあるだけのように感じられます。
褒められたいと思っている人間以外に褒められても嬉しく無いと言うのは姫が見ている限りではあやちゃんも同じです。自分でそう言う事を話していた事もありました。あやちゃんの場合は自分が良ければそれで良いと言うところがあり、誰かに褒められたい訳でも無ければ、褒めて欲しい人がいる訳でも無いので、やはり、姫とも違うのですが。人それぞれと言う話です。
この第拾弐話「奇跡の価値は」の中では葛城ミサトの十字架ははっきりとした立体ギリシャ十字として描かれていました。これまでは立体感の少ないギリシャ十字を付けていたり、明らかに下の腕だけが長いラテン十字を付けていたりと、複数の十字架を持っているかのようだったのですが...取り敢えず、ここでは立体ギリシャ十字で統一されているようでした。